Job Description 6: 探検家 【ニュー・ワールド】
  1607年4月、イギリス最初の植民者たちを載せたスーザン・コンスタント号など3隻の船が、大西洋を渡り北米の現ヴァージニア州ヘンリー岬へとたどり着きます。彼らはその後入植に適した土地を求めてジェームス川をさかのぼるのですが、この映画はこれら3隻の帆船による遡行のシーンから始まります。

  静けさのなか次第に曲勢の高まる音楽とともに、半年の航海を終えて入植準備を開始する一行の緊張と、白人たちの到来を迎えたネイティヴアメリカンの一族の警戒心とが一体的に映し出され、繊細な自然描写も交えつつ場面は一気に両者の遭遇へとつながっていきます。映像表現としてこの流れが非常に秀逸で、レンタルDVDを片手間に見始めたのですが映画館へ行かなかったことを即座に後悔しました。しかもたびたび挿入される昆虫や草花の近接ショットに、ああまた“シン・レッド・ライン”のパクりかぁと思って監督名を確認したら、なんとテレンス・マリックその人。後悔はさらに深くなりました。

  なぜこれまでこの作品がノーマークだったかを考えるに、どうも主演のコリン・ファレル(“タイガーランド”,“マイアミバイス”等)ばかりへ光を当てた宣伝に騙されたのかもしれません。彼は出てきた当初こそ注目したものの、演技力よりスター性を前面に出すトム・クルーズやブラット・ピットのような近年の舵取りに少しがっかりしていたんですね。(彼らが嫌いという話ではなく、DVDで観ることが多いという話。) それに加えてテレンス・マリック、まさかこんなにすぐ次作の公開があるとは想像もしなかった。
  この監督が“シン・レッド・ライン”で20年の沈黙を破ったことは映画好きの人間であればいまだ記憶に新しいところでしょう。しかし彼が“シン・レッド・ライン”で果たした功績、他の表現者に与えた影響の深さについてはなお図りがたいものを感じます。近接の映画・TV界のみならず、卑近なところではたとえば井上雄彦『バガボンド』やかわぐちかいじ『ジパング』などにも明らかにこの映画からの援用と思われるカットが諸処に登場したり。

  ともあれ話を本作品に戻すと、作中の主人公は3人。いずれも史実上の人物で、実際にジェームスタウン植民者とパウハタン族との和解を仲介したジョン・スミス、その後同植民州においてタバコ栽培の産業化を主導したジョン・ロルフ、そしてかの有名なポカホンタス。この名を出した途端ディズニーのようなイメージを持たれかねないためここまで控えておきましたが、実際には彼女の目を通した光景が劇中で核となるシーンのほとんどを占めています。
  パウハタン族の生活、身振り、衣装などはとてもよく作り込まれており見る目を存分に楽しませてくれますが、と同時に90年代までこの種の題材を扱う映画がことごとく侵されていた妙なエキゾチシズムに対しても慎重に配慮されており、ポカホンタスがプロテスタントの洗礼を受け欧州へと渡った後半生を描いたシーンにおいてすらこの配慮はまったく欠けるところがありません。ジョン・スミスを想いながらもジョン・ロルフの誠実さに次第に心を溶かしていく彼女は映画の終盤でスミスとの再会を果たすのですが、ここにおいても彼女がしっかりと屹立した個性をもって表出され得ていることはこの種の慎重さが成功を収めていることの何よりの証とも言えそうです。
  クリストファー・プラマー、ノア・テイラーといった脇を固める役者陣も素晴らしく、ジェームス・ホーナーの音楽の良さは冒頭に述べた通りです。いまこの文章を打ちつつ傍らでDVDを観なおしてもいるのですが、この映像の構成力はさすがだと思わせる箇所がそこかしこに散見されます。こうした作り込みかたは、毎年のように作品を量産している売れっ子監督にはまず見られません。一見の価値ありです。

  公式HP: http://www.thenewworldmovie.com/

◇関連の予告など
  思うに大航海時代ほど現代映画の素材に適した舞台も珍しいかもしれません。この時代の思考生活様式のヴィジュアライズは、そのまま‘異世界’との感覚的な邂逅へと展開しうるからです。というわけで、下記作品の日本での公開があり次第、たぶんまた書きます。
"Apocalypto": マヤ文明末期の部族抗争が舞台。過去記事のコメント欄で一度話題になったメル・ギブソン監督がまたやってくれたらしく。駄作でも映画館で観る価値がありそう。[2006年公開@米] http://apocalypto.movies.go.com/
"Pirates of the Caribbean: At World’s End": DOLプレイヤーにはおなじみのパイレーツ・オブ・カリビアン第3作。前作とは同時撮影されたため、こちらを観ないことには第2作についても書く気になれず。スタッフ&キャスト陣もほぼ同じ。[2007年公開@米]
"The Fountain": 作品舞台となる3時代のうち1つが大航海時代。女王の命を受けマヤの密林へ分け入る冒険者が主人公。“π(パイ)”,“レクイエム・フォー・ドリーム”のダーレン・アロノフスキー監督作で、目下売れ線のレイチェル・ワイズ(“ナイロビの蜂”,“コンスタンティン”等)主演。[2006年公開@伊] http://thefountainmovie.warnerbros.com/

"The New World" by Terrence Malick [+scr] / Colin Farrell, Q’orianka Kilcher, Christopher Plummer, Christian Bale, Noah Taylor / James Horner [Music Score] / 149min / US / 2005

コメント

nophoto
王子
2007年2月24日2:26

ニューワールドは借りた!
マユゲの人がメインの主人公だよね
デズニーのポカホンタス見てから見ると「あー・・・実際はそうよな」とか変な感心の仕方をしてしまう映画だったよ

goodbye
goodbye
2007年2月24日14:54

ポカホンタスの「お話」には彼女が渡欧後スミスが生きていることを知ったショックで体を壊して早逝するってバージョンもあるようだけど、ニューワールドのほうがほんとリアルで切ないんよね>< 切なすぎて感情移入を抑えてしまったかもしれず。

ところで今日15:05からNHKで再放送される『ARASKA 星のような物語』、本気でおすすめ。って遅いかぁ><

goodbye
goodbye
2007年2月24日16:42

↑星野道夫を扱った番組で『ALASKA 星のような物語』でした、急いで打って説明なしなうえ綴りまで間違えてるw 世界遺産や高画質の自然番組ってだいぶ良質なのが増えたけど、この企画はピカ一だった。この種の番組で涙が滲んだのは久しぶり。

◇関連の雑想など
  ついでなので、長くなりすぎて記事本文からいったん省いてた部分を以下に。前々回記事に関連して。まずNPCのアーサー・バロー(2月12日記事「魚は水に入らず」参照のこと)関連。本記事冒頭に「イギリス最初の植民者」と書いたけれど、大英帝国史には植民者全員が失踪してしまった前例が実はあります。16世紀末ウォルター・ローリーによって派遣された彼らがまさにそれ。命がけもいいとこ。
  次にNPCトーマス・ウィンダム。祖先探しはアメリカである程度裕福になり時間も余った白人のおじさんが始める趣味の一典型なわけだけど、ポカホンタスの末裔であると主張する白人エリート層はかなり多いみたいです。ブッシュ大統領一家もその一味。まぁ政治的にも使えるルーツではありますね。

  また本文で述べたネイティヴアメリカンの習俗再現の慎重さ、これに類する印象を受けたのがイーストウッドによる“硫黄島からの手紙”でした。どちらも描かれた主人公を除くほぼ全員が死に絶えた事実の上に成り立つプロットでありかつ、以前ならばそうした物語には必須とすらされた憧憬や郷愁がそこにはまったくありません。すでに失われてしまったもの、自分たちがかつて対峙したものへと向けられた視線の真摯さ、たとえば“硫黄島”の栗林中将による壮絶な「天皇陛下、万歳!」のシーン。これは映画史に残る1ショットとして長く参照され続けることになりそうです。

ウカノミタマ
ウカノミタマ
2007年2月27日7:54

はじめまして。いつも楽しく拝見させて頂いてます。
リンクフリーとの事ですのでリンクさせて頂きました^^

goodbye
goodbye
2007年2月28日0:32

おお〜 よろしくです〜^^ 長文型のブログ書かれてますねぇw DOL系では少数派っぽいのでお互いがんがりましょう、未来の長文派のためにっ!(ぇ”

ウカノミタマ
ウカノミタマ
2007年2月28日14:50

早速のリンク&ご訪問ありがとう御座いました。拙い駄文を書き連ねてありますが、どうぞ宜しく御一笑下さい^^

goodbyeさんの読み応えあるブログに少しでも追いつけるよう頑張ります><ノ

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