旋律と海とクジラたち
2007年6月15日 海のなかの見えない航路 コメント (6)
海のなかでは光が吸収されてしまうから、
すこしさきはもう見えない。
陽の光の行きわたる浅瀬を沖まで泳いでいくと、
そこから数十メートル先はもう深い藍色に染まっていて、
何がひそんでいるのかもわからない。
ひとによって感じるものはちがうだろうけど、
生身のからだを晒して泳いでいることに
わたしは底知れない怖さを感じるときがある。
とにかく、怖い。
だからよく、世界は狭くなったとか
世代の近いひとが口にするたびに、
あなたの世界がもともと狭いだけでしょう?
なんてちょっとイジワルなことをおもってしまう。
簡単に行ける場所が増えたことを言っているつもりなら、
その増えた場所のいくつかをじっくり観察してみるといい。
どこもたどり着くのが容易になったそのぶんだけ
きちんと浅くなっているということに、
きっとすぐに気がつくはずだ。
けれどながい、ほんとうにながい時間をかけて
自分の世界を着実に押しひろげ獲得していった者であるのなら、
もし世界が狭いと感じたとしても
あながち誤りではないのかも、とも考える。
ほとんど夢想にも近い。
たとえば海中から陸棲への移行を遂げた生物群。
あるいは再び海へと戻っていった鯨やイルカたち。
サウンドチャンネルということばがある。
海中では水温が低ければ低いほど、音の伝わりは遅くなる。
また水圧が高ければ高いほど、音の伝わりは早くなる。
海面から潜ってゆくと、水深が深くなればなるほど
水温は低くなっていくのだけれど、
ある一定の深さを超えるともうあまり下がらなくなってくる。
ここに、音の伝わりがもっとも遅い
海水の層ができることになる。
これがサウンドチャンネルだ。
数百メートルから一千メートルほどの深さにあると
されるその層では、音速が落ちる代わりに
音波の上下運動も抑制されるから、
音が損耗を逃れどこまでも遠くへと伝わってゆくという。
ヒゲクジラの一部は低周波の音波を使い、
この層を通じて数千キロ離れた仲間と
連絡をとりあっているらしい。
海面で息を継ぎ、
種によっては水深二千メートルを超えて潜航を繰り返し、
その深みで遠くの友と語らう彼らからみた世界の形は、
およそ人の考えるものとはかけ離れているだろう。
たんなる夢想にはちがいない。
けれど彼らの描く世界地図がもしあるのなら、
それはきっと想像をはるかに超えた構造をもっている。
そこではきっと、太古の昔に陸地を去った記憶が
なにか決定的な意味をもってくる。
第二次世界大戦のさなか
サウンドチャンネルの軍事利用を目的とした研究が進められ、
戦後の早い段階で、この深度で放たれた音波は
地球の裏側にまで伝わることが確認されていた。
だが人間以外の生物が、この層の特性を
どのように利用しているかについては
まだほとんど解明されていないと言っていい。
彼らはそこで、ときに歌を歌うという。
歌は伝わり、海域ごとにアレンジを加えられ、
世代を超えて受け継がれていくという。
視界が意味をもたないその領域で
聴覚へと流れ入るその歌は、
とうに音の響きであることをやめているだろう。
世界はもともとそういうものとして、そこに広がる。
ただひと知れず、そこに息づく。
それでいいと、よくおもう。
すこしさきはもう見えない。
陽の光の行きわたる浅瀬を沖まで泳いでいくと、
そこから数十メートル先はもう深い藍色に染まっていて、
何がひそんでいるのかもわからない。
ひとによって感じるものはちがうだろうけど、
生身のからだを晒して泳いでいることに
わたしは底知れない怖さを感じるときがある。
とにかく、怖い。
だからよく、世界は狭くなったとか
世代の近いひとが口にするたびに、
あなたの世界がもともと狭いだけでしょう?
なんてちょっとイジワルなことをおもってしまう。
簡単に行ける場所が増えたことを言っているつもりなら、
その増えた場所のいくつかをじっくり観察してみるといい。
どこもたどり着くのが容易になったそのぶんだけ
きちんと浅くなっているということに、
きっとすぐに気がつくはずだ。
けれどながい、ほんとうにながい時間をかけて
自分の世界を着実に押しひろげ獲得していった者であるのなら、
もし世界が狭いと感じたとしても
あながち誤りではないのかも、とも考える。
ほとんど夢想にも近い。
たとえば海中から陸棲への移行を遂げた生物群。
あるいは再び海へと戻っていった鯨やイルカたち。
サウンドチャンネルということばがある。
海中では水温が低ければ低いほど、音の伝わりは遅くなる。
また水圧が高ければ高いほど、音の伝わりは早くなる。
海面から潜ってゆくと、水深が深くなればなるほど
水温は低くなっていくのだけれど、
ある一定の深さを超えるともうあまり下がらなくなってくる。
ここに、音の伝わりがもっとも遅い
海水の層ができることになる。
これがサウンドチャンネルだ。
数百メートルから一千メートルほどの深さにあると
されるその層では、音速が落ちる代わりに
音波の上下運動も抑制されるから、
音が損耗を逃れどこまでも遠くへと伝わってゆくという。
ヒゲクジラの一部は低周波の音波を使い、
この層を通じて数千キロ離れた仲間と
連絡をとりあっているらしい。
海面で息を継ぎ、
種によっては水深二千メートルを超えて潜航を繰り返し、
その深みで遠くの友と語らう彼らからみた世界の形は、
およそ人の考えるものとはかけ離れているだろう。
たんなる夢想にはちがいない。
けれど彼らの描く世界地図がもしあるのなら、
それはきっと想像をはるかに超えた構造をもっている。
そこではきっと、太古の昔に陸地を去った記憶が
なにか決定的な意味をもってくる。
第二次世界大戦のさなか
サウンドチャンネルの軍事利用を目的とした研究が進められ、
戦後の早い段階で、この深度で放たれた音波は
地球の裏側にまで伝わることが確認されていた。
だが人間以外の生物が、この層の特性を
どのように利用しているかについては
まだほとんど解明されていないと言っていい。
彼らはそこで、ときに歌を歌うという。
歌は伝わり、海域ごとにアレンジを加えられ、
世代を超えて受け継がれていくという。
視界が意味をもたないその領域で
聴覚へと流れ入るその歌は、
とうに音の響きであることをやめているだろう。
世界はもともとそういうものとして、そこに広がる。
ただひと知れず、そこに息づく。
それでいいと、よくおもう。
コメント
もう少しひかえてもいいんじゃないですか?
ただご覧のとおり毎日記事更新してるわけじゃないので、トータルの送信回数は他ブログに比べ微々たるものだと思います。タイトルが同じだと目立つんでしょうね。しかしこういうことも気にするかたがいるとは思いませんでした。失礼しました。前々から気にされていたのでしょうか? 今回の記事だけのことならたぶんさらに手を加えることはないのでご安心を。もうしません。
一つ私見を言えば、日々記事を量産するものもあれば、一つ一つは長いけれど形が変わっていくものもあって良いと思います。前者は頻繁にage(?)があってよくて、後者はダメというのは当然のことなんでしょうか? って ゆみ☆さんってキャラを知り合いにもたないので、誰に聞いてるのかもピンと来ませんが。
ご存知かもですが、ageとは2ch等の掲示板用語で更新を告知することを言います。
最初の書き込みは恐らく大航海時代のTB Peopleへの掲載のことだと思われます。私もよく使うので知ってますが、昨晩から今朝にかけてサーバメンテなのか更新が止まっており、goodbyeさんの記事もアガりっぱなしになっていました。そのため余計に印象強く目立っていたかもしれませんよ。
もっとも、goodbyeさんがふだんから同じ記事を執拗にいつまでもアゲ続けているという印象はないですし(私はTB Peopleでさよなら航路に出会ったので告知はやめないで欲しいです)、多少目についたからといって平然と掲示板用語を交えてイヤな感じの匿名的な書き込みをしてくる人を気にする必要は別にないと思います。
ageにマナーがあるなら、人様のブログコメント欄での言い方にだってあるはずですから。
長文失礼致しました
まぁ、いろんなひとがいますよね^^; この手の書き込みは相手の顔が見えないぶん気にしようもないというのが本音です。ご教示感謝でした^^
海も神秘ですが、宇宙も神秘ですよね。。
宇宙に始まりがあるって事は終わりもあるんですよね、終わりってどこだろう?自分は宇宙が好きだなぁ。。
自分blogやらないので、名前だけで失礼します。。
あと、前にも誤解されるかたがいたので追記しますが、わたしは匿名のコメントがいけないとはまったく言ってません。上記の「相手の顔が見えないぶん気にしようもない」とは、自分の発言に責任のとれない匿名クレームは野次にはなっても批判として機能しないことを言っています。文面上おなじ理屈を言っていても、このケースではそれを書いているひとの問題にしかならない。そこに何かしらの感情を読みとるとしても今度は受け取りかたの問題にしかならず、言葉を介したコミュニケーションとしては最も意味のないものだと思います。内部告発のように主張より事実が優先される場合は別ですけど。