Job Description 11: 上級士官 【ホーンブロワー 海の勇者】
 “マスター・アンド・コマンダー”から始めた当記事シリーズも、気づけば10編を超えました。そこで今回は原点回帰という意味も込め“ホーンブロワー 海の勇者”をとり上げます。この作品はC.S.フォレスターの帆船小説を映像化したもので、フランスと鋭く対立する当時の英国海軍下でのちの名艦長としての頭角を露わにしていく主人公を描いています。

  17歳で士官候補生として任官した主人公ホレーショ・ホーンブロワーは、当時の英国海軍が組織として抱えていた矛盾やフランス・スペインとの激しい抗争のなかで揉まれ、時に命を賭けた強行手段や敵軍の渦中でのロマンスなどを演じつつ一人の軍人としてたくましく成長していき、やがては海尉を経て一隻の軍船を任される艦長へと出世を遂げます。
  この作品の何よりの特徴は、映画よりも長尺のテレビドラマとして制作されたために、過去に当記事シリーズで紹介してきたどの作品よりも登場人物一人一人の造形が細やかに描かれていることです。主人公と切磋琢磨する同期の士官候補生たちや、彼らを見守りのちのちは共に闘っていく上官たち、まだ右も左も分からないような主人公を支え成長後は忠実な部下となっていく古参の老水夫や熟練水兵、激しく斬り結ぶ敵国の軍人すらも深い魅力を湛えたキャラクターとして活躍しています。

  文学作品が映像化されると、得てして原作を追いかけるだけのストーリーがだらだらと展開しがちですが、そこがこの作品は大きく違っていて脚本・演出・登場人物等々に独自の要素が多分に組み込まれ、見終えたあとになって初めて気づくような巧妙な伏線も無数に配されています。この点は“ホーンブロワー 海の勇者”のもう一つの特徴と言えるもので、このために一見ありがちな歴史物ドラマのような外観をもちながら、一度見始めるとやみつきになるような魅力がにじみ出てくるんですね。
  本編は3部構成、全8エピソード。登場人物や時代背景等の連関は保ちつつも、100分の尺をもつ各エピソードはそれぞれに一応独立しています。登場する主要船舶のいくつかは模型やCGに頼らず実物の帆船が再現されており、カリブの要塞や牢獄、軍港ポーツマスやブレストのセットなどもテレビドラマとしてはちょっと信じられないほどに手の込んだものが登場します。英米で制作されるドラマには時々奇跡のような珠玉の水準をいくものが登場しますが、この作品も紛れもなくその類に入っています。第4部以降のシリーズ続行は制作会社によって否定されているようですが、残念だけれどそれもそのはず。これだけのクオリティを発揮できるのは制作会社、業界、ひいてはその国の社会経済が良い状態に保たれている時期だけだろうとも思います。

  少し個人的な好みを言うと、主人公が駆け出しの頃から何かと世話を焼き、やがて若き艦長へと出世を遂げた主人公と絶対の信頼関係を結ぶことになる老掌帆長のマシューズと、出会ったときには上官でありながら主人公の類稀な才覚に早くから気づき、第3部では有能な副長として他に代え難い存在になっていくウィリアム・ブッシュの2人はもう大ファンになってしまいました。(笑) また海軍提督として全シリーズを通して主人公を見守り鍛え上げていくサー・エドワード・ペリューの出てくる場面も、組織の幹部としての威厳と息子に対するようなまなざしの醸すコミカルさが絶妙に混ざり合って毎回味わいのあるものになっています。提督を演じる役者ロバート・リンゼイの演技力にはたびたび目を見張らされました。
  ちなみにこのペリュー提督は彼の指揮するフリゲート艦HMSインディファティガブルとともに史実上の存在で、他にも実在した人物・艦船が時折登場することも本篇に彩りを与えています。主人公はもちろん架空の人物ですがファーストネームの‘ホレーショ’が英国海軍きっての英雄ホレイショ・ネルソンに由来することは疑いようのないところですね。ネルソンは作戦立案の段階からすでに当時の海軍における慣習を逸脱しているところがありましたから、実際の会戦域における鬼謀ぶりともども小説のモデルとするのにうってつけの存在とも言えるのかもしれません。
  また“大航海時代Online”の特に海事メインのプレイヤーにとって本作品は、“マスター・アンド・コマンダー”や“パイレーツ・オブ・カリビアン”などに比べても見どころの多い作品になっていると思います。とりわけ冒頭からフランスの偽装商船を拿捕してしまう第3部などは、船首砲による敵船の減速、速度差を読み込んだ敵船メインマストの破砕、目視できない艦隊との浅瀬での神経戦などなど、戦闘そのものの再現にも強い力点が置かれており垂涎ものです。

  日本ではNHK-BSが過去に幾度か放映したほか、CS系列のテレビ局などでも時折放送されているようです。国内版DVDも出ています。かくいうこの10月にもミステリーチャンネルというCS局で全作品が順次放映中だったり。12月にも放送予定あり。[関連URL↓]
   http://www.mystery.co.jp/program/hornblower.html
  また国内の某人気動画サイトでも現在全シリーズを鑑賞可能です。とはいえこちらは著作権の問題上いつ削除されても不思議はないし画質も悪くお勧めはしませんけれど。(笑)
  最後によくできた日本語版ファンサイトもご紹介。コンテンツが豊富です。
   http://www.interq.or.jp/venus/blanca/blue/hornblower/
  ともあれドラマ作品本体は歴史物ということもあって5年や10年で古色を帯びる質のものではないため、今後も長くいろいろな場所で放映される機会がありそうです。一見の価値はあり。秋の夜長にお薦めします。

"Hornblower" by Andrew Grieve / Ioan Gruffudd, Robert Lindsay, Paul McGann, Paul Copley, Sean Gilder / C.S.Forester [book author] / 100min x 8 episodes / UK / 1998-2003

コメント

ルースレス
ルースレス
2007年10月23日16:37

ホンブロワーいいですよね^^
ボクもDVDをBOXで買いましたよ
小説版から一番違和感なかった役は奥さんですよw

goodbye
goodbye
2007年10月24日9:27

わたしは原作を読んでいないのですが、あの奥さんはドラマの流れ的に少し唐突な感じがしていたのはそのためだったんですね。(笑) 脚本化する際に、いずれも船に乗っている他の主要登場人物間のバランスは自由が利いても、奥さんのシークエンスはそうもいかなかったというところでしょうか。

goodbye
goodbye
2007年10月24日10:19

読み返すと少し本記事が長すぎる気がしたので、下記の余談部分をコメント欄に移しておきます。長いのはいつもという話もありますが、一応^^;
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  関連の興味深い動画を見つけたのでついでに。
   http://www.youtube.com/watch?v=5XgquojV1Ck
  これ、本篇を観ていないと分からないのですが、まったく違うストーリーを編み上げているんですね。その編集の仕方が非常に秀逸でちょっと感心してしまいました。映画作品やテレビ番組を素人がいじって単に面白おかしくつなぎ直すのは昨今よく目にしますが、受け手の生理的な情感の流れに沿うペースを維持したまま感情移入を誘うのは経験とセンスを要するため意外に難しく、これはプロでなくとも映像学校の学生さんなどセミプロの手によるものじゃないかと憶測します。話がそれました。
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nophoto
ラルクァ
2007年10月25日12:25

ちょうど最近知り合いからDVDを借りて全部見たところです。
DOLの方は最近休止中ですが、海戦や航海のシーンをみているとすぐにでも戻りたい欲にかられてしまいますw
ブッシュさんいい味出してますよねぇ。私も大好きです。
小説は私も読んでいませんが、あえて読まずに、ないと公言されている続編を待ってみたいと思っています。

goodbye
goodbye
2007年10月26日6:40

休止中にこれ観たら、たしかにわたしも即座にINして大砲の準備など始めそうですw

ブッシュ副長、号令の声の張りがまたいいんですよね。記事中のCS放送、気になって結局先日観てしまったのですが字幕なしの吹き替え版でやってたのがもったいなくてずっと副音声の原語のほうを聴いてました。けれどおかげで新たな発見も多々あったりして、今夜から最終エピソードの放映なんですけどすでに観てるのにかなり楽しみだったりします(笑)

現状は続編制作の望みが薄くても、その時々の情勢次第でいきなり企画が降って沸くということもよくある話ですからね。わたしも気長に期待する一人です。

goodbye
goodbye
2007年10月26日19:11

速報2つ。記事を組むほどではないのでコメント欄でひっそりとw

・BBC制作“キャプテン・クックに挑戦!新エンデバー号の大航海”放送
BS朝日にて 10月26日(金)−11月2日(金) 土日を除く毎夜20:00-21:00
http://www.bs-asahi.co.jp/bbc/index.html
気づくのが遅くて初回はもうすぐ始まるわけですが><
復元航海中にリアルでNY911テロが起きてしまうなど、趣旨から予想するより深い内容になってます。数か月前にも同じ枠で放送してたんですけどね。

・“エリザベス:ザ・ゴールデン・エイジ”2008年2月東宝系にて国内ロードショー
 タイトルは原題のままなので変わりそうです。98年制作の“エリザベス”の続編、監督・主演も同じです。以前にこの記事シリーズで“エリザベス”を取り上げようと考えたこともあったのですが、先送りしておいてよかったです。というのも、今作品にはなんと、あのアルマダが登場しちゃいます。これは楽しみ!
 http://www.youtube.com/watch?v=IDIyo8anaIU
↑YouTubeに長めの予告編があったのでぜひご覧あれ。もろに海戦シーン、ありそうですね。しかもかなりお金かけてそう>w<

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