処分終縁
  先週の半ば、‘大航海時代Online’の公式HPにおいて海外からの不正接続アカウントについて利用資格取り消し等の処分告知が為されました。類似の処分は過去にも幾度か実施されてきましたが、今回の実施はその内容や規模から処分に該当しないプレイヤーの間でもその後ちょっとした波紋を呼びました。今回はこの件について。

▼概要
  まず公式HPの告知文を念のため挙げておきます↓
  http://www.gamecity.ne.jp/dol/news/important/body_230.htm

  これに関するプレイヤー間の議論の一例として、教祖ブログのエントリーを以下に↓
    ?提起: http://nekokyoudan.blog14.fc2.com/blog-entry-1060.html
    ?検討: http://nekokyoudan.blog14.fc2.com/blog-entry-1061.html
    ?発案: http://nekokyoudan.blog14.fc2.com/blog-entry-1062.html


  この問題に触れているプレイヤーブログは他にも多々ありますが、コメント欄も含めた上記3エントリーにおいて議論の沿革はおおよそ示されていると思います。
  また公式掲示板[http://www.gamecity.ne.jp/dol/bbs/index.htm]でもより盛んな議論が交わされていますが、‘この場所であれば運営サイドの目に留まる可能性がある’という意識が影響するのか常に論点が曖昧なまま維持されがちで、上記?のコメント欄同様の議論の飽和が早々に起きている印象があります。

▼何が本当の問題なのか
  上記に挙げた教祖ブログでの反応で顕著なタイプの一つに、ブログ著者の‘抗議’を今回の措置の撤回を要求したものと短絡させた上で、運営側への賛否や支持不支持を表明する類のものがあります。規約通りの処分なんだから云々とか、大所高所からMMOというのはそういうものだと諭す種の書き込みもそれに相当しますが、これらは発想の前提において問題としているポイントがブログ著者とズレている(と思える)ため、わたしの目にはとても無意味なスレ違いを生じさせているように思います。

  こうしたやりとりを読み流してわかったのは、今回の処分が少なくないプレイヤーの間で議論紛糾の元となっている原因の核は複数あるため、そのうちの何を焦眉の懸案と捉えるのかによって感じかたや反応の色合いが変わってくる‘らしい’ということです。したがって恐らくこの件を考える際にまず把握すべきなのは、問題は一つではない、と理解することだと思います。処分単体でのRMT撲滅への実効性の有無や、プレイヤー個々の賛否は重みや眼差す角度の違いこそあれいずれも問題の一端に過ぎません。
  ですからこの点への配慮を欠いたまま投じられる匿名の吐き捨てコメントによって議論が飽和してしまう(というか全体が希薄化し読みづらくなる)のは残念なことですね。goodbye個人の直接的な感想は、上記?コメント欄の6つ目の書き込みに集約されるので興味のあるかたはご参照ください。以下はそれより一歩引いた立場での私見になります。

▼私見と雑感
  わたしの知り合いにも海外から接続しているプレイヤーは幾人かいます。そのなかには規約の存在を承知のうえで突発的なアカウントの停止を覚悟しつつプレイを楽しんでいるひとや、海外接続でプレイしても良いかと運営にきちんと問い合わせをした上で長くプレイし続けているひともいます。どうやら一様に今回の処分を免れているようですが、彼らとの交流等を通して今回の件に関し極私的に最も問題だと感じているのは、処分そのものの結果ではなくそのやり方にあります。
  自身は海外から接続した過去もする予定もなく、また処分を受けた友人がいるわけでもないにも関わらず、今回の処分に憤りや違和感、心の痛みを覚えたプレイヤーのいくらかは、わたしと似たような見方を持っているのではないでしょうか。つまり冒頭に挙げた公式HP内の告知文中にあるような「プレイヤーの皆様に安心して楽しくプレイしていただけるゲームとなるよう」な手段として、今回の措置はよく配慮されたものだったのかという観点です。

  ここで今回処分の対象となったプレイヤーの直の声を少し紹介します↓
  http://sawatarihonoka.blog23.fc2.com/blog-entry-24.html

  沢渡ほのかさんという在香港のプレイヤーによるものです。“The end of the world”と題されたこの文章、前半部分では処分対象者の立場から今回の措置に対する不満がごく直接的に述べられています。が、大枠としてはすでに挙げた教祖ブログでの議論を出るものではありません。
  この記事で特に目を引いたのは後半部分の青字および赤字で強調された箇所だったので、以下そのあたりをメインに意訳します。

−−−記事タイトルにもあるように、今回の件は私にとってこのゲーム世界の終わりを意味しています。誰もが分かっている通り、光栄が私たち海外プレイヤーへの処分を撤回する可能性は0.1%もないでしょう。

しかしここで私が言いたいのは、今回の光栄のやり方はあまりに横暴ではないかということです。海外からの接続という規約違反を犯していたことは確かです。ですがそれを理由に処分を加えるのに、事前の警告がまったくなかったことを言っています。光栄にその法的義務がある否かということではなく、会社の姿勢としてどうなのか。少なくとも1ヵ月前の警告さえあれば、処分停止を覚悟でプレイを続けることもそこで課金を止めることもできたはずなのに、私の場合は"Cruz del Sur"へのアップデートと翌月分の支払いをした直後にこの処分を受けてしまいました。

契約とはその文面の如何に関わらず、本来双方向的な原理を持つものです。光栄側が私たち海外接続のプレイヤーからも支払いを受け取ってきたこともまた、この原理に照らせば私たちが行っていたことと同様に契約内容を逸脱した行為なのです。もし光栄がこの契約の原理をも遵守するなら、最初から私たちの支払いを受け入れるべきではなかった。その時点で光栄もまた契約不履行であったと言えるのです。この点が看過されたまま、2年ものあいだ提供し続けてきたサービスを、一方的に突然止めて良いはずがありません。

ですからサービス受容者の利益を考えるうえで、光栄による今回の処分は決してフェアなものでも正しいものでもありません。にも関わらず、日本の慣習法では良しとされてしまうのでしょうか。−−−


  わたし(goodbye)は沢渡さんの訴えに全面的に同意できるわけではありません。たとえば彼女が12月2日に挙げている嘆願書の記事などは、処分対象者ではないプレイヤーへの呼びかけ方に明確な違和感を覚えるため、この面での支援行動を採ろうとは思いません。ただ今回の件を考えるにあたって、彼女の上述記事での訴えには日本のプレイヤーも耳を傾けて良い部分が大いにあると判断したため、拙訳を試みこの場で紹介することにしました。

  というのも、いささか急ぎ足にも思えるこの処分をなぜこのタイミングで?ということを考えると、公式HPでの告知文には表出されていない外部的な要因が何かしらあると考えざるをえないのですね。すでに挙げた教祖ブログへのわたしのコメントでも述べた‘他国サーバの運営からの要望では?’というのは半ば茶々ですが、他にも例えばアメリカではMMO内での財産についてその所有権等の法的整備が現実に進んでいると聞きます。この流れは不可逆でしょうから、のちのち問題と‘なりそう’な根はできるだけ早く摘んでおくに越したことはない、という判断の所在等を深読みもできます。
  上記意訳部分のとりわけ後半に関しては、本文中に"In Europe,"の語があるようにこのブログ著者のロンドンでの在住経験を通して身についたバランス感覚に基づく主張のようです。記事末尾の"customer’s law"が文字通りの消費者に関する商法関連を指さずもし文意的に"custom’s law"つまり慣習法(正しくは"common law")を指しているなら、彼女の指摘はわたしの深読みと重なる部分も出てきます。(日本でも商慣習法は民法に優先されますね) もちろん単なる深読みですからそれ自体はどうでもいいのですが、いずれにしても外部的な要因がもしそこにあるなら、それを開示されることなく処分を受けた側に不条理な思いが生じるのは必然と言って良いでしょう。その不可解さは総体としてまるで無益なものとしか思えないのです。
  そしてこの点は恐らく、直接の処分対象者とは縁の薄いプレイヤーのいくらかをも不安にさせた‘本当の問題’の在り処の1つです。

  ちなみにこの沢渡さん、ゲーム内では時折姿を見かける程度だったのですが、このかたのブログは移行前の旧サイトの頃からごくたまに訪れていました。忙しい学生生活(当時)の合間をぬって自分のペースでプレイを楽しんでいる感じが読んでいてとても好ましいものだったんですね。個人的にハタチ前後のころ香港や台湾に多くの友人を得た経験もあり、このゲームを始めた初年度に感じた魅力の一つはこうしたプレイヤーと場を同じくできることにもありました。これは余談になりますが、たとえばゲーム内での仕様修正に関するこのかたの考察などは、当時まだ‘大航海時代Online’を始めたばかりだったわたしにとってとても有益なものでもありました。(当該記事URL↓)
   http://diarynote.jp/d/72119/20050914.html


  ゲームを始めた初期、レベルが近かったこともありゲーム内でわたしと最も行動をともにしてくれた友人は、ニューヨークへ転勤中の関西人でした。これに限らずチャットを通して伝わってくる遠い場所での生活の雰囲気みたいなものも、わたしにとっては確実にこのゲームへINする楽しみの一つだったんですよね。
  時期によって日本からINしたり海外からINしたりというプレイヤーサイドの需要が今度どんどん増していくのは、時流から言ってほとんど自明です。ですから個人的には、こうしたプレイヤーの潜在可能性をあらかじめバッサリと排除してしまう方向性だけが今後の‘大航海時代Online’にとって有益なのか、判断しかねる部分はとても大きいのです。

▼画像について
  画像は下記サイトより。pepeさんによるプレイヤーブログです。

  てぃきんるーむhttp://pepeice.blog15.fc2.com/blog-entry-517.html

なぜ今回の処分からこの画像掲示に行き着くのか、一見するだけでは不可解に映るかもしれません。ですがそのプロセスも含め11月30日記事以降のpepeさんの記述の展開には共感できる部分が多いので、この問題に関心を覚えたかたにはぜひ訪問のうえ納得いただければと思います。

※当記事をお読みいただいたうえで、今回の処分に関するご自身の主張や提案その他をされたいと感じたかたがもしいらしたら、有効性の観点から上述の教祖ブログもしくは公式掲示板への投稿をあらかじめお薦めしておきます。この記事を書いた目的は過去のほぼすべての記事と同様であるため、この種の問題にのみフレームトークをぶつけたがるタイプと思しきコメントに対し、色好い扱いはたぶんしません。あしからず。

ラフロータ杯 in Notos 前夜
大会前日となりました。予告通りトーナメント予想を。

 ラフロータカップ in N鯖:
  http://wwwkokowww.blog71.fc2.com/blog-entry-44.html
  ※左掲画像の材料もこちらからお借りしました。ココさん快諾感謝です。

  goodbyeは“Un bien de Sevilla”に所属しています。当初自艦隊が優勝するトーナメント予想図を描いてみたのですが、絵としてあまりに面白味がなかったので画像のようになりました。いずれも他の艦隊と同じ目線で自艦隊を評価する意義は小さいという感覚に基づくものですが、結果として明日は初戦敗退の図を一戦一戦覆していく展開になりました。なるのです。

  半月前の予想記事を書いた時点から、艦隊の陣容変更やこの間の錬成具合により各艦隊への見方も若干変わったので、それらも交えて以下改めて大会予想、最終版です。

▼まず優勝候補艦隊。

 1. あばちょと奇妙な実 敵艦隊の支援量に対する圧迫力は他に真似しがたいものあり
 2. Sea Anemone 思った通りKASさん加入。前回大会初戦敗退の悪夢を振りきれるか
 3. ELVE艦隊  攻守のバランス感覚に抜群。常に手堅い形を維持できる
 4. 特攻野郎A艦隊 正体はEurosサーバ大会の優勝艦隊メインな構成らしく…おそるべし

  これに自艦隊を加えた5者が私的予想における最終的な優勝候補艦隊です。ELVE艦隊と半月前の記事ではここに含めていた巣鴨艦隊に関して評価順位を下げた形になりますが、これは両艦隊への見方が変わったからではなく、奇妙な実/Sea. A/特攻Aの3艦隊について大幅に評価が上がったためのものです。いずれも平日夜の無制限模擬開催などを通じこの2週間での錬成ぶりが予想以上の様子で、また後2艦隊についてはメンバー変更や直接戦った上での情報入手等を通し評価の基盤そのものが変わりました。

▼次にブロック予想。
  準決勝出場枠に当たるA〜Dブロックをもう一段階分けて予想してみます。各艦隊のメンバー構成は下記大会公式記事コメント欄にて。↓
   http://wwwkokowww.blog71.fc2.com/blog-entry-38.html

A-1: 頭文字D 
  ある意味もっともストーリーのある小ブロック
  英PK艦隊に葡PK2艦隊が各個撃破されそうだが、自他の戦力を精査する機会に
A-2: Sea Anemone
  青帆艦隊は目的別の特化型訓練を長く続けているらしく、陣容に関わらず質実
  注目は巣鴨艦隊。連携に優れた青帆と個艦能力の揃ったSea A.にどう張るか

Aブロック勝ち抜け: Sea Anemone
  頭文字Dは癖のある艦隊運動をSea A.につかまれると苦しい
  局所的な数的劣位が生じD側に最初の被撃沈艦、そこから崩れ落ちる展開が濃厚

B-1: Schwarz艦隊
  攻守に手堅いみるきさん、撃沈センスのあるmoopさんなどSchwarz艦隊がリード
  メタボ艦隊スレイン・スターシーカーさん、ELPE艦隊えみぃ☆さんの爆発が勝敗の分水嶺
B-2: Un bien de Sevilla
  goodbyeもがんばらなきゃいけない小ブロック
  かつてMGM艦隊のギレンさん、雷鳴静寂さんに私淑したところ大ゆえ恩返しの機会に
  特攻野郎A艦隊は上述のごとく大会の戦いかたを一番熟知した艦隊…おそるべし

Bブロック勝ち抜け: Un bien de Sevilla
  画像では初戦敗退としてますが勝ち抜けます。なにいってんだ自分。

C-1: ELVE艦隊
  艦隊の総合力ではELVE。同国旗の蒼龍艦隊にはつらい戦闘が待ってそう
  とりまる2900の個艦レヴェルでの打撃力はELVEと張るため、予想が覆る可能性も大
C-2: A.F.O.K
  東方不敗、ELBEともに粒揃いではあるものの、撃たれ強さの点でA.F.O.K

Cブロック勝ち抜け: ELVE艦隊
  艦隊錬度においてELVEに利があるものの、A.F.O.Kが最初の一隻を落とせれば脈あり

D-1: 名前が決まりませんでした艦隊
  前回大会(NCC)で準決勝まで進んだ実績のあるEndless Voyageの突破力に期待
D-2: あばちょと奇妙な実
  gangstar、エーゲ艦隊ともにベテラン揃い。特にgangstarは直近の戦力UPも目覚ましい
  が、本大会の交戦ルール下では奇妙な実の優勢は圧倒的

Dブロック勝ち抜け: あばちょと奇妙な実
  名前が決ま〜艦隊が伝来の粘り腰をどれだけ見せられるかで決まるブロック

▼そして準決勝/決勝とか。
  準決勝以降に関しては、先に挙げた優勝候補5者のうち当日のコンディション[各自の回線状況/体調/家庭環境(笑)等]にトータルで優れた艦隊が勝ち抜け、優勝するでしょう。準決勝から戦闘形式が殲滅方式へと変わること[詳細は大会公式HP参照]も驚愕の展開をもたらすポイントになってきそう。

  とはいえリーグ戦と異なり一戦勝ち抜けのトーナメント形式には波乱が付きものなので、どこが意外な躍進を見せるのかも非常に楽しみなところです。特に巣鴨艦隊、とりまる2900の準決勝進出や、東方不敗、E. Voyageの準々決勝進出はとてもありそうな気がします。

▼さいごに予想雑感。
  斥候による機雷使い1隻と、重ガレアスまたはロワイヤルによる白兵屋1隻を含めた艦隊構成が脅威とされる昨今にあって、優勝候補に挙げた5者のうち実に3者が機雷優遇職不在、4者が装甲戦列艦+戦列艦のみのいわばクラシックスタイルをとる艦隊になったことは、予想した自身でも少し意外でした。
  とはいえ現状5vs5の艦隊戦において機雷+白兵による圧迫が非常に有効なのは確かですから、この2年半プレイヤーのあいだで培われてきた戦列艦メインの戦術に、新しい戦術の熟成がまだまだ追いつけていないということなのかもしれません。

  以上です。もし賭けクジのTOTOみたいな企画があれば、皮算用の材料にでもお役立てあれ。ただしその結果大枚をなくしても責任は各自で(笑)。というかあれです、トーナメント予想図とか、自分からハズレにしていく前提で描いてますしね。いつもの戦いかたを十全と維持さえできれば、自分の艦隊は問題なく優勝できる力量があると感じています。

 
ラフロータ杯 in Notos 後記
半年ぶりの模擬戦大会、楽しませていただきました。以下ご報告。

 ラフロータカップ in N鯖 公式結果一覧:
  http://wwwkokowww.blog71.fc2.com/blog-entry-46.html
  ※左掲画像の素材も上記HPから拝借いたしました。

  画像中の青い線は前回記事での予想的中、赤い線はハズレた箇所を指します。

▼goodbyeな軌跡。
  で、紫の線は自艦隊。準々決勝敗退となりました。さいごは相手もびっくりしたんじゃないかというくらい、普段でもあまりやらない沈みかたで各々沈んでいきました。goodbyeは自艦隊で3隻目の被撃沈艦となったのですが、一瞬の躊躇がそのまま白兵中の船体にぶつかって船尾を相手に差し向ける最悪の形で出てしまい、途方もなくマヌケな沈みかたに無念を通り越してしばし呆気にとられハイさようならという感じ。

  週末の定例模擬でもこういう戦闘は確かに稀にあるのですが、その‘稀’が一番してはいけない場面で味方に揃って出た展開。逆に言うとそこを確実に突いてきた相手Schwarz艦隊のみなさんが予想以上に上手かった。カロネード多用、砲術家、斥候、フィリバスタがいて通常弾防御も混ぜるという、他には見ないけれど後から振り返ればかなりバランスの良い構成を採っていた点も感心しました。その後もSchwarz艦隊は、前回記事で優勝候補の一つとしたSea Anemoneを撃破、決勝まで進んで本大会の台風の目となった観があります。

  正直な話、わたしの艦隊は2回戦での特攻野郎A艦隊との戦闘に精力を注いでいたため少し気が途切れていた印象も否めず、みな判断の精度にブレがありました。これはとても悔やまれるところです。自分が沈まなければまだ行けたはず、とは恐らく3回戦で沈んだ味方4人のいずれもが思っているところでしょう。まだまだやれることはありますね。

▼優勝艦隊の奇妙な秘密、大会MVPと決勝戦。
  優勝艦隊は“あばちょと奇妙な実艦隊”。予想も当たりました。旗艦のabbacchioさんが焼き討ちスキルを搭載していた点を非難する向きがあったらしくちょっと驚いたのですが、では他の艦隊がそれをしなかったのは‘敢えて自重していた’からなのか、と考えればその非難が的外れなことは明白だとわたしには思えます。
  艦隊自体が十分に強くなければ、純粋に勝ちに行く戦術検討の帰結として焼き討ちスキルを混ぜるような真似はできないのですよね。ふつう、旗艦の装甲戦列艦であれば耐砲撃装甲や排水ポンプが付けるのが妥当です。準決勝以降が殲滅方式とはいえ、それを付けないリスクを敢えて侵せたのはこの艦隊の実力を前提として初めて成り立つ判断でした。

  今だから明かしてしまえば、実はこういう‘遊び’の余地を持てたのが、この艦隊の何よりの強みだったりします。abbacchioさんは他にも特大ラムを装備し、守備衛生隊で臨むなど本大会を通じてオンリーワンの選択をしていましたし、白兵役のガルノルトさんは相手に応じて重ガレアスとラ・ロワイヤルの使い分けが可能です。機雷役による特大ラム装備は接舷回避による被打撃増大のリスクを呼びますが、それを凌げれば機雷による与ダメージ機会の増加や衝角攻撃そのものによるコンボ打撃が読み込めます。一長一短あるガレアス級の船種選択と同様、いずれも一見微細な差異ですが積み重なると艦隊全体にとって大きな強みになる‘仕掛け’なんですよね。
  焼き討ちスキルの搭載もこれらと相互に密接にリンクした‘仕掛け’の一部であったからこそ初めて有効となったわけで、現状では他艦隊がたやすく真似できるものではないとする理由もここにあります。まあただ、できると自認する艦隊がもし他にあれば相手として面白いので、ぜひ実行してほしいとは思います。可能性だけを言うなら誰にでもあるのは当然なので。

  特に大会MVPに選ばれたガルノルトさんについては、この一年あまりを通じて常にガレアス級の船種による艦隊戦術を磨いてきたのを間近で見てきたのでよく分かります。最初の頃はハマれば強いけれど外れると艦隊の弱点でしかなかったのですが、これは現在ガレアス級に乗ってくるほとんどのプレイヤーに対しては依然言えることなんですね。この一年の研鑽を通じてその水準から飛び抜けたことが彼の強みであり、彼がいてこそ成り立つ戦術として、上記に述べたような諸要素の総合である比類なき‘敵艦隊の支援量への圧迫力’が生まれたわけです。これが前回記事にて優勝候補筆頭とした理由の第一でした。
  そしてこの艦隊に勝つためには、まさにこの点を総合的に把握することが重要だったわけなんですが、それが一番できたのはgoodbyeのいる艦隊だっただったけに、やはり決勝で戦ってみたかったと改めて悔やまれます。従ってこの優勝艦隊による搭載能力の選択をトータルで批判するならまだしも、焼き討ちのみを取り出して非難するのは完全に視野狭窄ということになります。(ちなみにこの非難の源となったらしいかたのブログでは、必ずしもそうした意図による発言ではない旨が後付けされています)
 
  決勝戦は両者一隻ずつ減っていく激戦となったものの、最後は文字通り支援量への攻撃によって勝負が決まりました。機雷による被ダメージに対する修理と、白兵に対する外科支援によってSchwarz艦隊の動きが鈍くなったところを撃ち抜いていく展開となり、3vs3となって以降はSchwarz側の支援役となった外周に張るカロネード搭載艦が焼き討ち効果で水を切らしたため被拿捕艦、全体の修理量が下がっため被撃沈艦と相次いで白旗が上がる展開に。
  
▼予想外です。
  前回記事での予想を外した画像中の赤線部分、Schwarz艦隊の躍進については上述したので、他の3箇所について。
  青帆艦隊が巣鴨艦隊を破った戦いは観戦したのですが、外周カロネード艦と白兵艦の相対的な撃たれ弱さという巣鴨艦隊最大の弱点をきっちり摘みとっていく展開は周到でした。続く対Sea Anemone戦においても一度は5:3まで持ち込んだのですが、この大会ルール下ではそこで亀になりさえすれば物資の差や制限時間の問題から相手がボロを出さざるをえないところを、なぜか潰しに出たことが仇となりました。青帆の売りは堅実さにあるというのがわたしの認識だったので、1回戦はそのものの戦闘に拍手、2回戦は非常に惜しまれる展開でした。

  A.F.O.Kの準決勝進出については、前回記事で「最初の一隻を落とせれば脈あり」とした通りになったようです。艦隊錬度に問題ありと見ていたのですが個艦レヴェルでの力量は確かですから、この艦隊が優勢に立つとそうそう逆転できるものではありません。
  もう一つは名前が決まりませんでした艦隊の不振についてですが、実はここが一番予想が外れそうだとは思っていました。このメンバー中心の艦隊と最近幾度か戦った際に、以前に比べ格段に撃たれ弱くなっていることが気になってたんですね。けれどもキミミ団の勝ち抜けはそれを考慮に入れてもやはり予想外、ネットラジオの出演者もいらしたようで、素直に健闘を讃えたいと思います。
  ここまで書いてきて気づいたのですが、予想を外して勝ち進む艦隊はだいたい団体内で独自の研鑽を積んでいたり、goodbyeが参加することのないイングランド模擬で強くなってきた艦隊に多いようです。ポルトガルやフランスの模擬はイスパニア模擬と合流することがあるので、次の機会があればこの点も留意しておきたいところです。

▼おわりに。
  実はgoodbye個人にとって、この大会は初めて予選リーグ敗退や1回戦敗退ではない形で勝ち進めたイベントでもありました。さいごに自戒の意味でもう一度書き付けておけば、不甲斐ない終わりかたをしてしまった最大の原因はやはり精神的なものだったと改めて思えます。硬くなってました。省みると、待ち時間中の些細な作業も含め、ふだんはやっていることを色々としてなかったことに気づきます。こういう場で平常心で戦えるためにはやはり、それなりの裏付けを築き上げておく必要もあるんだなあと、今後への課題も見つかる機会となりました。リアルでは本番に強いほうなんですけどね(笑)。

  というわけで、大会そのものは3時間ほどで終了するコンパクトなものでしたが、個人的にとても楽しませていただきました。運営のみなさん、ありがとうございました。そして出場したみなさん、支援や観戦など何らかの形で関わっていたみなさん、おつかれさまでした。
  それからネットラジオの中継、ゼフィロスサーバのキャロルさんというかたメインの放送でした。深みのある声がとても良かった(笑)。わたしは普段このゲームをしているとき常に他の映像や音声を付けているため、DOL系のネットラジオはほとんど聞かないのですが、臨場感があって面白かったです。こちらに出演されたみなさんもおつかれさまでした。
  こういう企画、やはり半年に1度ではもったいないですね。今後も企画されるようでしたら、協力できることはぜひいたしたく。出場者の立場はたぶん譲れませんけれど(笑)。
王朝のゆくえ
  ‘大航海時代Online’の拡張版‘Cruz del Sur’の第2章が幕を開けました。今回はその周辺で空想にうつつを抜かしてみます。
  世界周航路開通等のあった第1章がゲームに地理的な広がりを加えたとすれば、第2章‘Special Ornaments’はペットやアパルタメントの用途増など選択肢の厚みを充実させる拡張とまずは言えそうですね。

▼‘日本実装’と‘Special Ornaments’
  少し突飛な小見出しですが、‘日本はいつ実装されるのか’というこのゲームのプレイヤーなら誰しも抱いたことのあるだろう疑問と今回のアップデートとの間には、けっこう深いつながりがあるように思えます。

  というのも思うに現時点では、多くのプレイヤーがこのゲームに対し新たな要素の漸次的な投入を前提としてプレイを続けているからです。極端な例を挙げますがオセロや将棋、ルービックキューブやテトリスが好きで、そこに新要素の追加を望むひとは少ないでしょう。つまり遊びの道具として、多くのひとが恒常的に楽しめる内容に‘大航海時代Online’はまだなっていない。
  MMO(大規模ネットワークゲーム)とはそういうものというクリシェを脇に措けば≪※下記注≫、‘大航海時代Online’の場合このまま日本実装を迎えてしまうことは、ゲーム内世界の不可逆的な衰退の起点を自ら作ることになりかねない。なぜなら他のMMOと異なりこのゲームは実世界を一応のモデルとするため、現状では紛れもなく拡張時の最大の売りの1つであるゲーム内世界の‘地理的な拡張’が、日本実装時にはほぼ限界となってしまうからです。あとには極地航路の開通くらいしか残りません。
  よって‘地理的な拡張’を終えることがユーザーのプレイ動機に与える影響は小さいと運営側が判断できるほどにゲーム内容の充実もしくは地理的な側面以外での拡張方針の確立がない限り、‘日本実装’はない、というのがわたしの見方です。

  そしてこの‘地理的な側面以外での拡張’という点で、これまでとは若干色合いの異なって見える今回のアップデート‘Special Ornaments’のような方向性は重要になってくるのですね。しかしこの内容を第1章にもってくるのでは拡張版の売れ行きに響きかねないし、同様に第3章に置くと尻すぼみ感を生みかねません。師走の空気とクリスマスの気分が街にも溢れるこの時期に第2章として行ってしまうのが、長期的にも意義が大きいとすればその理由はこのあたりにありそうです。直近の4Gamersでの開発者インタビューなどで第3章の比較的早い実装がほのめかされているのも私見で言えばこのためということに。

  日本に限らず新海域の実装時期は‘大航海時代Online’における最大の謎としたい開発サイドの意向が公式HPにて示されていますが、シナリオとしては描いていても具体的な時期確定はいまだできていないのが真相のような気もします。とくに‘日本実装’については、わたしと似たような推測を抱いているユーザーも少なくないのではないでしょうか。
  ただこういうことを考えたときに毎度気になるのは、打ち出される運営方針に内向きの姿勢をつねに感じることなんですよね。以前にも書きましたが、いま想定されるパイのなかでどう魅力を付加するかに神経を払っているのは分かるのだけれど、パイそのものを広げる努力をゲーム内容の拡張から感じることはあまりありません。この面では売りかたがより重要なのも確かですが、内容が伴わなければプレイヤーとして定着しませんから結局は中身ありきなんですよね。もちろん現状維持で自足できるならそれも良いのですが、ともあれ‘日本実装’が‘終わりの始まり’にならない道を歩んでほしいと願います。

※注:MMOを巡る一般論に広げることが文脈的に意味を持たない、の意。先月末の海外接続アカウント取り消し騒ぎでも見られた傾向だが、一見視野を広くとるかのような正論が陥りがちなフレームアウトゆえの議論の抽象化とも。

▼‘オスマントルコ実装’と‘アユタヤの謎’
  ‘Cruz del Sur’実装を機に更新された公式HPや4Gamersの開発者インタビューなどで、プレイ可能な国籍としてのオスマントルコ追加に関する言及をしばしば目にしたことも意外でした。わたし自身かつてオスマン帝国が実装された場合の仕様などを妄想もしましたしこの話は大歓迎なのですが、具体的な検討に入ったかのような言葉がこのタイミングで出てくるのは予想外だったのですね。[オスマン関連記事は下記URL↓]

    麾下の破軍 http://diarynote.jp/d/75061/20070209.html

  東アジアと南北アメリカの沿岸以外は一応の実装が済んだ現在にあっても、領地港がありながらプレイヤーが本拠地に選べないなど、‘大航海時代Online’におけるオスマントルコの扱いは特別です。史実のこの時代において独立した交易国は他にも多々あったにも関わらず、オスマントルコのみがそうした‘格’を与えられた理由の第一としては、大航海時代を通じて西欧列強以外で影響力の大きな特定の港を維持し続けたのが近隣ではほぼオスマントルコだけということが考えられます。それはまたインドに覇したムガール帝国やヴェネツィアと競った商都市国家ジェノヴァ、アシャンティやインカアステカ、明清など各大陸の雄のいずれもが為しえなかったことでした。
  それに対してオスマントルコはコロンブスによる新大陸‘発見’の40年前に陥落させたコンスタンティノープルをイスタンブールとして以降、よく知られているように20世紀の無血革命に至るまでの実に500年ものあいだ、まったき帝都として存続させました。大航海時代に端を発した植民地政策を推進する西欧の列強諸国にとって、オスマン帝国はそうして征服の叶わぬ最大の対抗者であり続けたわけですから、‘大航海時代Online’においてこの国籍をプレイできるようになる可能性が、多くのプレイヤーにとり魅惑的に映るのも当然と言ってよいでしょう。

  ただ、このように大航海時代の数百年間に自国の独立と領地港の維持を全うした国というのは、他にも少なからずあるのですね。アユタヤ王朝や日本(主に徳川幕府)などはその代表的なものといって良いでしょう。アユタヤ王朝は結果的に列強間の対立を巧妙に利用する形で生存を貫きましたし、戦国時代に急進的な発達を遂げた日本の軍事動員力は現実的にこの時期の列強が手に負えるものではなかったことも近年の研究で確認されています。こうした東アジア海域での独立国との衝突による戦艦の喪失がアルマダの海戦を戦った英西どちらの陣容にも少なくない影響を与えた事例などを考え併せても、‘大航海時代Online’の今後を占う上で彼らは決して無視できない要素だと言えそうです。
  とりわけアユタヤ王朝の存在は、すでに現時点における‘大航海時代Online’の交易港の分布にも決定的な影響を与えたとわたしは考えています。端的に言えば交易港ロッブリーの扱いがそれに当たります。東南アジアの実装前、わたしはこの場所に新港アユタヤが実装されると予想していました。[新港予想記事は下記URL↓]

    鈍の月映え http://diarynote.jp/d/75061/20070228.html

  けれども現に実装されたのはロッブリーだったわけです。この都、列強の戦略的な支援によりアユタヤの副都として建てられた経緯があるのですが、本来はシャム湾の最奥、チャオプラヤ川を遡った現バンコクの北に位置するアユタヤよりもさらに北方にあるのですね。そして首都はあくまでアユタヤであり続けたことを考えると、アユタヤではなくロッブリーが実装された理由もおぼろげに見えてくる気がします。つまり、西洋列強の国旗がひるがえる港としてアユタヤを実装することはさすがにできない、という開発側の決断をそこに見るわけです。

  そしてこの原理を起点にさらなる深読みを重ねれば、2つの妄想が可能となります。1つはアユタヤがいずれ別の形で実装されるかも、という妄想。たとえばテノチティトランのような独立した街として。現代でも有名な観光地となっているように、ヴィジュアル的に非常に映えるこの街を看過しておくのはもったいないというだけの理由ですが。
  残る1つは、もしオスマントルコがプレイ可能になる日が来るならば、同じ理屈で日本がプレイ可能な国となる道筋ができるかも、という妄想。ただし上述のごとく日本の実装は現状ないというのが私的結論になるため、これはもうかなり別世界の話になりますけれど。(笑)

▽画像とおまけ
  今回はアップデート各要素への言及の代わりに、一見無関係に思える2要素を結びつけて考えるという試みをしてみましたが、きっと誰の目にも強引に映ったと思います。ただ同時に‘if-もしも’はコーエーが長年お家芸にしてきた手法ですから、こういう方向性もありかなとも思います。画像はわたしのペット‘もっち’です、以後よろしゅう。以下おまけ。

   やっちゃった! http://popoloerrante.blog26.fc2.com/blog-entry-391.html

現在開催中の公式イベント“聖ニコラウス祭”での粗相(?)についてのルクレ嬢によるツッコミです。実はこのイベント、わたしも公式HPでの告知文中に「…アムステルダムには従者を伴った司教様が訪れ、神々の教えを説いたり、子供たちにお菓子を配ったりと…」という記述を見つけ、あれまあと思っていたんですね。この時代のアムステルダムには東洋人の居住区もあったようだし神々を崇める人物がいるのはいいのですが、司教がそれを説いたら命の保証はないでしょう。

もちろんカトリックではあり得ない文言が意図的に盛り込まれたと考えられなくはありません。ですがこれらが運営方針とは無縁の単なるテキスト上のミステイクだとすれば、冒険クエストにもよくある微妙な言及ともども、そこらへんの22-3歳の大学院生を雇ってチェックを入れさせれば簡単に直せることのはずなんですよね。優秀な学生ほど他人の論文の手直しやら文字起こしやら翻訳やらを無給薄給で日々こなしていますから、常人には信じがたい量と質を一人で達成してしまえます。ユーザーの民度をアンケートや公式掲示板から測る限りはそんな必要を感じることも皆無なのかもしれません。しかしもの言わぬユーザーこそが最大多派なのもまた確かです。これは‘パイそのものを広げる努力’(上述)にも重なるのですが、大人向けのゲームとして裾野を広げる気があるのなら、こうしたあたりに注意を払うのは意外に効く気がするのです。

 
 
Job Description 12: 芸術家 【ダ・ヴィンチ ミステリアスな生涯】
  この絵の人物、とても綺麗なかたですよね。穏やかな表情のなかにはどこか峻然とした印象もあります。瞳は一見温かみを感じさせますが、茫漠とした目線の先にあるものへの情感がそこには欠落しているようにも思えます。華奢な撫で肩を包み込むローブのひだは、触れれば音もなく形を崩しそうなほど繊細に描かれています。

  いつもとは趣向を変え、今回はいきなり脇道へ逸れてみようと思います。

▼大天使の微笑
  上掲画像(クリックすると拡大します)はレオナルド・ダ・ヴィンチの代表作の一つ≪岩窟の聖母≫[1495-1508 ロンドン・ナショナルギャラリー蔵]の部分図です。ダ・ヴィンチと聞いてこの絵を見れば、その頬や唇、鼻先から眉にかけての陰影などに、モナ・リザのそれを想い起こすひとも多いことでしょう。この絵の全体像は下記URLにて。

  全体図 http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/cf/Leonardo_da_Vinci_027.jpg

  全体図では画面の右下に位置するこのひと、とても品の良さそうな女性に見えますが、実は女性ではありません。というよりも、誰なのかわかっていません。人間ではなく天使なのは主題や背中に描かれた翼からも確かだし、天使は基本的に両性具有なので女性でないこともまた確かなのだけど、イエスの出生と逝去を見守る大天使ガブリエルなのか、洗礼者ヨハネの守護聖人である大天使ウリエルなのか、いまだ見解が割れているんですね。
  そしてこの絵にはもう1つのヴァージョンが現存し、そちらはルーヴル美術館の大回廊に現在展示されています。映画“ダ・ヴィンチ・コード”では、聖杯伝説の核心に連なる貸金庫の鍵がこの絵の裏側に隠されていました。

  ルーヴル版 http://www.abc-people.com/data/leonardov/021.jpg

  様式論的な比較は省きますが、工房での制作過程でどちらにダ・ヴィンチ本人の筆がより多く入ったかという疑問に関しては、ルーヴル版ということでほぼ結論が出ています。日本語でこの論争について検索すると歴史学的な見地からこれに異論を唱えるサイトが上位に出てきますが、人物の顔つきだけをみても、より強い主張や繊細さが込められているのはルーヴルのほうだと感じるひとは多いでしょう。しかしこの屹立した個性のギラギラ感がロンドン版では薄められているため、当時の人々にルーヴル版よりもウケが良かったとしてもうなずける話です。たとえばこの天使の表情をとってみても、ロンドン版のほうがその相対的な凡庸さが落ち着きや優しさの情感を呼び起こしているようにも思えます。

  それはさておきこのルーヴル版には、ロンドン版にはない謎がいまだ数多く残されています。画面中の天使の指先やヨハネの持物の不在などがその代表的なものですが、実はこうした謎を残す画家の姿勢こそがダ・ヴィンチのダ・ヴィンチたる所以だったりします。何しろ宗教画とは本来、その宗教の教えを視覚化することで信仰の援けとするのが本義ですから、画家の独創による謎かけなどはあまりにも余計であり、同時代には神への冒涜とすら受け取る向きもあったでしょう。実際この絵の発注元であるフランシスコ会からルーヴル版は受け取りを拒絶され、ダ・ヴィンチ晩年のパトロンであるフランス王フランソワ1世の元に置かれたことが、現在ルーヴル美術館に展示されている由来ともなりました。
  油彩画ですから注文主から問題の指摘を受ければ上塗りすることもできたはずです。ゆえにそれをせず我を通したところが宗教画に対するその批評的視座とも相俟って、しばしば彼が‘最初の近代人’の一人とされる理由にもなっているように思います。

▼ミステリアスな生涯
  というところで、本題へ。

  レオナルド・ダ・ヴィンチといえば稀代の芸術家、万能の天才という他に、上述したような創作への姿勢に限らずどこか謎めいたイメージがつねに纏い付いています。ヨーロッパ各地を転々とした個人史にはいまだ不明な点が多く、鏡文字により遺された手記からは時代を逸脱したかのような着想の持ち主であることが窺えます。今回とりあげる“ダ・ヴィンチ ミステリアスな生涯”は、そうした彼の姿形に迫ったドラマ作品です。

  さて彼の名が付く映像作品としては先にも挙げた“ダ・ヴィンチ・コード”を思い浮かべるひとが今は多そうですが、そちらをハリウッドスターを起用した美術史版インディージョーンズとするなら、本作“ダ・ヴィンチ ミステリアスな生涯”は質実に彼の軌跡を描いた大作ドキュメンタリー・ドラマとまずは言えます。
  この作品は前回とり上げた“ホーンブロワー 海の勇者”同様、映画ではなくテレビ放映を前提に制作されています。1971年制作のため演出や効果音等に古風な趣きが多少目立ちますが、同じ制作意図で今日作られるとしても越えられそうにないほど作品の水準はしっかりとしています。監督はレナート・カステラーニ。他の映画作品ではカンヌのグランプリ、ヴェネツィアの金獅子賞を獲得している名匠ですが、このドラマ作品でもゴーデングローブ賞を獲得しました。
  
  全5話272分にわたる本編では単なる生年史と作品群の紹介にとどまらず、なぜその時その言動や作品構想に到ったのかという検証を逐一踏まえながら緻密にストーリーが進行していきます。彼の没後30年あまりたってから記されたヴァザーリの『芸術家列伝』を一応の軸として、現代の研究成果も豊富に盛り込んだ形で脚本が組まれており、彼や彼の代表作にまつわる通説のうち何が事実で何が虚構なのかが説得力をもって明かされていきます。残されたデッサンや作品構想をもととした実物大の再現作品/再現映像も数多く登場するため、百聞は一見にしかずという感じでその活動内容の広さ深さ、先見性の鋭さに改めて驚かされました。
  ダ・ヴィンチはよく知られているように自身の腕を買ってくれる諸侯を生涯渡り歩いたため、その生年史を少々知っているくらいでは周囲との人間関係が混乱しがちなのですが、本編中にはミケランジェロやラファエロ、チェーザレ・ボルジアやルドヴィーコ・スフォルツァ(ミラノ公)といった同時代人たちがたびたび登場してくるため、彼らとの関わりの実相も窺い知ることができる作品になっています。史実上の登場人物たちの作り込みに対してはそれぞれダ・ヴィンチ作品や同時代の肖像画等の画中人物に似た俳優が起用され、マニアックな見方かもしれませんがその点でも衣装ともどもなかなか凝った出来で見応えがありました。(ex.フランソワ1世の肖像画、ラファエロの自画像など)

  当時タブー視されていた死体研究を断行することによる世間との軋轢や、親戚の遺産相続を巡るスノビッシュな立ち回りなど、彼の卓越した面とは別に人間臭い側面の描写にも重点が置かれており、このバランス感覚がドラマに見た目以上の深い奥行きを与えています。季節はこれから冬本番となりますが、年暮れのせわしなさを離れて束の間のくつろぎを味わいたいかたになど、おすすめです。

"La Vita di Leonardo Da Vinci" by Renato Castellani / Philippe Leroy, Giulio Bosetti, Ann Odessa / 272min [5 episodes] / Spain, Italy / 1971

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